Kanazawa Jazz Days

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ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

高橋順子「夫・車谷長吉」昭和の芸術家のこと

夫・車谷長吉

夫・車谷長吉

 

 随分前の出張の折、大船駅で寄った本屋で購入。車谷長吉赤目四十八瀧心中未遂直木賞受賞で話題になったときに読んだ。それから数年は随分読んだ。そもそも私小説は気持ち悪いので、あまり読まないのだけど、鬼気迫る、そのもののドロドロは本人の特異な経歴と合わせ、ある種、読まずにはいられない、ものになっていた。感情の奥底でにあって、本来、他人には見せていけない異形の物を見せられたような感覚(その頃、赤目四十八瀧心中未遂の舞台のひとつ、尼崎で働いていたこともある)。

そのような著作から、十分、車谷長吉自身が変人であり、付き合いたくなる類の人物ではないことがよく分かる。偽悪的な記述、に因るではなくて、本当にそんな人物ではないのか、と思う。

そんな彼が詩人の高橋順子と所帯を持っていると知ったのは随分後であるが、それも凄いことだなあ、と思ったものだ。数年前、車谷長吉がこの世を去って、一所懸命読んだ時期が懐かしくなっていたのだ

だから書店でこの本を見たときに、買わずにはいられなかった。そして、出張の移動中に読んだ。車谷長吉の甘ったるい、自己中心的な性格がよく分かり、作品から受ける作者の印象と変わらず、ある種の納得を得た。それを支える高橋、編集者、パトロン(セゾン)。ゲージュツ家を支える構図だ。実は並行して島尾ミホの評伝も読んでいるのだが、島尾敏雄を含め小説世界の中に生きる人間の無頼な姿に驚かされる。そして社会の害虫のような人間に対する周囲の寛容。一芸で許している、のだ。

上手く書けないのだけど、去勢された時代のなかで、剥き出しの欲望が当たり前のように渦巻いていた昭和が遠い昔のように思える。政治家の不倫くらいでガタガタ話題になる今を生きていて。一芸で許せばいい、と心底思う。