Kanazawa Jazz Days

Kanazawa Jazz Days

ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

(ECM2096) 菊地雅章: Sunrise (2009) ECMとのこと、そして冥界からの便り

 改めて、このアルバムを聴いている。EastwardやVoicesと変わらぬピアノ。この人がアコウスティック・ピアノに向かっている時の音はあまり変わっていない。ピアノの音を聴かせているのではなく、沈黙を聴かせている。だからECMは向かない、と思った。残響の処理で、すっと音が引くときの奥行きのようなものが、かなり失われているような感じ。ピアノの美しさも、少し損なわれているように感じる。

 彼のピアノの音は粒立つような音の照り、のようなものはない。モンクのように、孤立した音を重ねていくが音の強度はあまり感じない。時折、はっとするような音をブロウさせて、その後の僅かな沈黙で昂奮を感じさせるような、そんな感じ。だから、本人意図以上の残響のコントロールはイケないように思うのだけど、どうだろうか。

(米国録音なので、菊地さんの持ち込みかと思ったけど、アイヒャープロデュース、James A. FarberはECMの米国録音で72枚担当、からすると、そうかなあ、と思うのだけど。)

 確かに、沈黙を感じさせる彼のピアノは「ECM的」ではあるが、「ECM」で醸成された音、ではない。「ECM」以前からそうなのだ。だから、ECMに音造りが必ずしもウマくいく、とは限らないのではないか。1970年代のVoices、銀界、Poesyの素晴らしい音を聴いて、改めてそのように感じている。

 アルバム自体の印象は2年半前とあまり変わらない。だけど、ピアノの音に違和感を感じていることも事実。その輪郭が緩くなったピアノの音を聴いていると、冥界からのささやき、のように聴こえるのは気のせいだろうか。そのような儚さをたたえている、ことがイコライズの効果、と云えば、効果なのだけど。

 スストの後、このアルバムで彼の存在が意識に還ってきた、ことを思い出して、この2日ほど再聴した。深夜、雪路をクルマで走りながら浸っていると、冥界からの便りのように聴こえてならなかった。


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[2013-05-29記事] 肌にまとわりつく大気の冷たさ
 山に登ったり、音楽を聴いていたり、そんな時の心象はとても似ているように思える。山とか音楽とかを介在させ、結局のところ自分と向き合っているような時間を過ごしている。そこで何が見えるのか、そんなことは全くないのだけど。ただ独りであることで完結している世界のなかに住まう、ような感覚。

 ただ、そんな気分で充足感が得られる音楽は限られているようにも思える。黒人音楽的な身体性の強いものはあまり向かない。人の世の中からつながった尻尾が切れていくような音、のほうが気持ちのなかの浮遊感が強く、所在の無い心細い気持ちがより強い内向性を生み出す。そして意識の階梯を降りていくような、冷たい爽快感がある。

 ここ数日、職場で菊地雅章の近作であるSunrise を聴いている。仕事場が少し広がり、ペンを落とすとカタッと残響を伴う大きな音がするような、そんな空間のなかで独り取り残されたような感覚。それが心地よく繰り返し聴いている。日の出(Sunrise)のような熱は感じない。むしろ肌にまとわりつく大気の冷たさ、陽があたりはじめた頃の、が伝わる。

 菊地雅章と山本邦山の「銀界」を聴くと、ECMが登場する前から、彼はECM的な音世界を持っていたことが分かる。だから、日本人のアルバムが遂に名門ECMから、のような話をみかけると違和感を感じてしまう。銀界から今まで、様々なスタイルで弾いているのだけど、このアルバムのような音世界はやっぱり好きだなあ、と改めて思った。

 

 


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[ECM2096]菊地雅章: Sunrise (2009, ECM)
1. Ballad I (Masabumi Kikuchi) 5:38
2. New Day (Masabumi Kikuchi) 4:46
3. Short Stuff (Masabumi Kikuchi) 2:11
4. So What Variations (Masabumi Kikuchi) 5:27
5. Ballad II (Masabumi Kikuchi) 7:13
6. Sunrise (Masabumi Kikuchi) 5:48
7. Sticks And Cymbals (Masabumi Kikuchi) 6:17
8. End Of Day (Masabumi Kikuchi) 4:47
9. Uptempo (Masabumi Kikuchi) 4:05
10. Last Ballad (Masabumi Kikuchi) 5:22
菊地雅章(p), Thomas Morgan(b), Paul Motian(ds)
Design: Sascha Kleis
Engineer: James A. Farber
Engineer [Assistant] : Rick Kwan
Painting [Cover Painting] : Akiko Kitami
Photograph [Liner Photos]: John Rogers
Producer: Manfred Eicher
Released:16 Mar 2012
Recorded September 2009 
Avatar Studios, New York