Kanazawa Jazz Days

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ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

Henry Kaiser & Wadada Leo Smith: Yo Miles! (1998) マイルスの玉手箱の標本(サンプラー)

 35年前、ボクたちは待っていた。1975年の大阪公演を収録したアガルタ・パンゲア以来、杳として音楽的消息が見えないマイルスを。1973年から1975年のマイルスの過激な音楽、ファンクでありフリーであり、そしてジャズであった激しいリズムの混沌の「その次」を。

 だから、復活後の姿がああであったことは、「あの時期」のマイルスの「勢いの微分値」を切り取ったものであったことを薄々知っていたボクたちには、「仕方が無い事」として呑み込んで、生きているマイルスを日本で見る事ができることで我慢しようと思った。だから、むしろ菊地雅章のスストが限りなく「その続編に近く」、マイルスの「あの世界」の標本(サンプラー)として聴いたものだ。そのスストの後、もなかった。

 ギル・エヴァンスの音の影響を昇華させようとしたジャコも早々に行き詰まり(才能の枯渇だよね)、Word of Mouthの後もなかった。メタ・フュージョンの世界、つまりフュージョンでの様々なリズムや音の蓄積とジャズの止揚、のような世界を多くのジャズファンは待っていたのではないか。だから、未だに屈折し、寂しい気持ちから抜けられない。

 「あの時期」のマイルスの音楽の多様性、素晴らしさと云ってもいい、を実感したのは、2つのre-mixアルバム、ラザウェルのパンサラッサ、他のDJバージョン達バージョンのパンサラッサを聴いた時。万華鏡を傾げる角度を変えるだけで、見えてくる音の表情が様々に変わる。「あの混沌とした」音の断面ひとつひとつが格好よく、そして案外透明度が高い切片で成り立っていることを、ラズウェルやDJ達は見抜き、標本としてピンを止めたのだ。

 何枚か聴いた菊地成孔DCPRGもまた違った意味でのマイルスのre-mixとしての側面は確かにあるし、このアルバムYo Miles!も確かにそうなのだ。マイルスの「あの音」を切り取って、今の時間にピンを止めていく作業。Miles Tributeと称してSo Whatをやるよりも、遥かにマイルスの世界をrespectしていると思う。

 このアルバムではヘンリー・カイザーをはじめ、1980年頃のメタランゲージ(カイザーのレーベル)で聴く事ができたImprovised musicのメンバーを中心に、レオ・スミスがトランペットを吹き、マイルスの曲をやっている。あの混沌さ、は意外となくて、むしろロスのImproviserであるカイザーの「あっけらかんとした空気」で、明るい側面が照りだされている。楽しい。またレオ・スミスのマイルスをrespectしながら、奏者自身の個性を発露させる演奏も素晴らしい。ルーニー君のばっちりコピーよりも、遥かに深く、本質的にマイルスに迫っている。

 これも、素晴らしいマイルスの玉手箱の標本(サンプラー)、だと思う。

  このアルバムで一番楽しかったのはMaiysha。悪魔のようなアルバム・アガルタのなかでオアシスのように流れた小品。これを、20世紀が終わろうとしている時点の音に「一歩進化」させていて、全くもって満たされていない「次作待ち」の渇望感を僅かだけど癒してくれたように思うのだ。

 

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Henry Kaiser & Wadada Leo Smith: Yo Miles! (1998, Shanachie)
CD1:
   1. Big Fun/Hollywuud 4:03
   2. Agharta Prelude 13:04
   3. Miles Dewey Davis III - Great Ancestor 11:01
   4. Black Satin 7:56
   5. Ife 35:33
   6. Maiysha 8:17
CD2:
   1. Calypso Frelimo 25:40
   2. Moja — Nne 10:12
   3. Themes From Jack Johnson 34:21
   4. Will(For Davis) 9:43 

Henry Kaiser, Elliott Sharp, Nels Cline, Chris Muir(g), Freddie Roulette(sreel-g), Wadada Leo Smith(tp), Bob Bralove, John Medeski, Greg Goodman, Paul Plimley(key), Oluyemi Thomas(b-cl), Bruce Ackley*, George Brooks, Jon Raskin*, Larry Ochs*, Steve Adams*(sax, *Rova sax Quartet), Michael Manring(b), Lukas Ligeti, Wally Ingram(ds)