Kanazawa Jazz Days

Kanazawa Jazz Days

ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

1970年代の匂い(Jazz会#26) − Joni Mitchellの影と光とジャズ


 1980年9月に発売されたShadows and Lightはジャズにとって大切な記録。パット・メセニー (g), ジャコ・パストリアス(b),ドン・アライアス(ds), ラリル・メイズ(key), マイケル・ブレッカー(ts)というフュージョン系のトップ奏者が一堂に会した唯一つの録音。1979年のジョニ・ミッチェルのツアーの記録。素晴らしい奏者達が一つの場所に集まり素晴らしい音を残す。その後、二度とそのような機会はなく、既に3人がこの世を去っている。特に音楽的なキャリアが短命であったジャコ・パストリアスの記録としては一番じゃなかろうか。1980年代に入ると、マンネリや麻薬とアルコールによる破綻の影がつきまとう。このアルバムが素晴らしいのは、ジョニとジャズ奏者が対等にインター・プレイをしているように感じられることだ。ジャス奏者を使ったポップアルバムではなくてフュージョン系アルバムとしても、素晴らしい高みを獲得している。

 ロック・ポップス系の歌い手がジャズ系奏者を使うことは珍しいことではない。とりわけスタジオミュージシャンとも呼ばれたフュージョン系奏者はいろいろなセッションに顔を出している。1970年代に入って、いわゆるAOR(Adult Oriented Rock)と呼ばれるようになった緩い定義の音楽はそのようなジャズ系奏者を多用し、精緻な音世界を作り上げている。しかしながら、素材としてのジャズやボッサを使いこなしているのであって、Fusionの本来的な意味である「混ぜ返したような融合」には至っていないものが殆どである。だからShadows and Lightの素晴らしさが、ジャズ・フリークの側から見えてくるのだと思う。元来のジョニ・ファンにとって違和感が大きいかもしれないが。
 
 Shadows and Lightを起点に過去に遡行していくと、1972年録音のFor the Rosesで西海岸のサックス奏者トム・スコットの名前が見え、翌年のCourt and Sparkでラリー・カールトン(g)、クルセイダーズジョー・サンプル(p)、ウィルトン・フェルダー(b)を起用し、AOR的な音世界に変貌させている。それ以前のフォーク歌手としての音世界からは大きく飛翔している(マイルスとの共演歴があるヴィクター・フェルドマンが有能なスタジオ・ミュージシャンであったことがよく分かる)。彼女の音世界がジャズに接近したのは1976年録音のHejiraからじゃないかな。やはりジャコの存在が大きい、まったく自由に彼の音を出している、ように思える。そして1978-879年録音のMingusでは、当時、亡くなったばかりのCharles Mingusが主題。ジャズへの接近が大きな話題となった。Weather reportのメンバーから、キーボードだけをハービー・ハンコックに変えた編成。そのような状況で敢行されたツアー、ジャズ的に面白くない訳がない。

 今回のジャズ会は、そんな1970年代の音楽風景を意識しながら、ジョニ・ミッチェルを中心に彼女と交差したジャズを取り上げたい(ジョニのアルバムの全て、その他のアルバムの大多数は米LP盤、ECMは西独LP盤で。すっきりとした音で楽しんでもらえると思う)。

Joni Mitchellディスコグラフィー(1979年から遡る)
( )は録音年

Shadows and Light(1979)
Joni Mitchell(g,vo), Pat Metheny (g), Jaco Pastorius(b), Don Alias(ds), Lyle Mays(key), Michael Brecker(ts)

Mingus(1978-79)
Joni Mitchell(g,vo), Jaco Pastorius(b), Wayne Shorter(ss), Herbie Hancock(el-p), Peter Erskine(ds), Don Alias, Emil Richards(perc)

Don Juan's Reckless Daughter(1977)
Joni Mitchell(g,vo), Alejandro Acuña, Airto, Don Alias, Manolo Badrena, El Buryd(perc), Larry Carlton(g), Michel Colombier(p), Glenn Frey(vo), Michael Gibbs(cond), John Guerin(ds), Wayne Shorter(ss), J.D. Souther(vo)

Hejira(1976)
Joni Mitchell(g,vo), Larry Carlton(g), Abe Most(cl), Neil Young(harm), Chuck Findley, Tom Scott(reeds), Victor Feldman(vib), Jaco Pastorius, Max Bennett, Chuck Domanico(b), John Guerin(ds), Bobbye Hall(perc)

The Hissing of Summer Lawns(1975)
Joni Mitchell(g,vo), Graham Nash, David Crosby(vo), James Taylor(vo,g) Robben Ford, Jeff Baxter, Larry Carlton(g), Victor Feldman(p, vib), Joe Sample(el-p), John Guerin(ds), Max Bennett, Wilton Felder(b), Chuck Findley(tp), Bud Shank(as, fl)

Miles of Aisles(1974)
Joni Mitchell (g,vo), Robben Ford(g), Tom Scott (reeds), Larry Nash(p), Max Bennett(b), John Guerin(ds)

Court and Spark(1973)
Joni Mitchell(g,vo), John Guerin(ds), Wilton Felder, Max Bennett, Jim Hughart(b), Tom Scott(reeds), Chuck Findley(tp), Joe Sample(p), David Crosby, Graham Nash, Susan Webb Cheech Marin, Tommy Chong(vo), Larry Carlton, Wayne Perkins, Dennis Budimir, Robbie Robertson, José Feliciano(g)

For the Roses(1972)
Joni Mitchell(g,vo), Wilton Felder(b), Russ Kunkel(ds), Graham Nash(harm), Bobbye Hall(perc), Tom Scott(reeds), James Burton(g)

Blue (1971)
Joni Mitchell(g,vo), Stephen Stills(b,g), James Taylor(g), Sneaky Pete Kleinow(steell-pedal), Russ Kunkel(ds)

Ladies of the Canyon(1969-70)
Joni Mitchell(g,vo), Teresa Adams(cello), Paul Horn(cl,fl), Jim Horn(bs), Milt Holland(perc), The Saskatunes(vo),

Clouds(1968)
Joni Mitchell(g,vo), Stephen Stills(b,g)

Song to a Seagull(1967)
Joni Mitchell(g,vo), Stephen Stills(b,g), Lee Keefer(banshee)

0. Prologue:Shadows and lightを聴く
(1) Joni Mitchell: Shadows and light
A面とB面。ジャコのベースがco-leader的な役割を果たしている。時折、はっとするような美しい音をパットが添えている。映像は同時収録のもの。ただし音的にはLPレコード(当時の米盤)のほうがスカッとした美音なので、同期させないで流します。

1. Shadows and light収録曲を中心に
(1)Hejira(1976)より
A1 Coyote, A4 Hejira
ジャコ・パストリアスの存在が大きい。初リーダ作を出した頃。ジャコの奔放な音がその後の展開を予期している。

(2)Mingus(1978-79)
ミンガスはベース奏者。タイム・キーパーであったベースに語らせることを課した人。そのミンガスへの追悼盤となる。ジャコとミンガスは全くイメージが異なる人なのだけど、ビート以外を語る、という意味では「うるさい」ベーシストである点に仄かな共通点を「今となっては」感じる。

2. Shadows and lightを彩る奏者達
(3) Bright size of life (1975,ECM)
Pat Metheny(g), Jaco Pastorius(b), Bob Moses(ds)


パットメセニーのデビュー作。パットメセニーとジャコ・パストリアスの共演盤は公式には、このBright size of life とShadows and lightのみ。まだ二人ともジャズ界のスターに駆け上がる直前で、清新というコトバが相応しい爽やかな音を出している。パットはこの路線を深化させていき、今も活躍中。ジャコは隘路に入り込み、クスリに溺れ死ぬ。最後は酔っ払いホームレスと化し、クラブで腕利きの警備員と揉み合いになり、腕をへし折られて死に至る。このレコードがリリースされてから僅か10年後のこと。瞠目。

(4) Jaco Pastorius(1975頃, EPIC)
Jaco Pastorius(b), Don Alias(perc), Herbie Hancock, Alex Darqui(p), Narada Michael Walden, Lenny White, Bobby Economou(ds), Randy Brecker, Ron Tooley(tp), Peter Graves(tb), David Sanborn(as), Michael Brecker, Wayne Shorter(ts), Howard Johnson(bs), Othello Molineaux, Leroy Williams(steel ds), Peter Gordon(French horn), Hubert Laws(piccolo, fl)


多彩な楽器で生地で極彩色の音世界を作り上げたジャコ。これが初リーダ作であり、Weather Report加入直前。まだまだ無名の時期の作品。最初で頂点を極めた故に、その後の音楽生活に暗い影を落としたのに違いない。冒頭のドナ・リーというチャーリー・パーカーの名曲に驚かされる。Shadows and lightでも一緒だったドン・アライアスとのデュオ。破天荒なアルバム。

(5) Weather Report: Heavy Weather(1976, Columbia)
Joe Zawinul(key), Jaco Pastorius(b), Wayne Shorter (ts), Alex Acuña(ds), Manolo Badrena(perc)


当時、一番人気のあったFusion band。この頃はザヴィヌルの曲調にジャコが支援するような感じで、ショーターの影は薄くなっている。故に時代とともにその魅力はゆっくりと褪せているように思える。さすがショーターの曲は未だに鮮度を保っているけど、何故だろう。ジョニのミンガスではWRのジャコとショーターが参加、ということで随分と話題になったものだ。この頃から8:30までがWRの頂点で1986年頃に解散するまで緩慢にマンネリ化していったように思う。

(6)Pat Metheny: Travels(1982, ECM)
Pat Metheny(g), Lyle Mays(p), Steve Rodby(b), Dan Gottlieb(ds), Nana Vasconcelos(perc, voice)


この時期ジャコは人格破綻をきたすようになっていた。パットは、Shadows and lightで一緒のLyle Maysとともに、Pat Metheny Group(PMG)として音世界を美しく構築し、次第にその存在感を高めていた。これは1982年のツアーの記録。その前年くらいに大阪でPMGを聴いたなあ、と今、思い出した。ジャコにしてもパット、ラリルも彼らの音世界のままジョニと共演していたことが分かる。

(7) Brecker Brothers: Heavy metal be-bop(1978, Arista)
Michael Brecker(ts), Randy Brecker(tp), Barry Finnerty(g), Neil Jason(b), Terry Bozzio(ds), Sammy Figueroa(perc) 他


ボトムラインでのライヴ。コルトレーンばりの激しいプレイが魅力のマイケル・ブレッカー。兄のランディ・ブレッカーと組んだブレッカー・ブラザーズで人気を博す。1980年代中盤から自己名義のアルバムでパット・メセニーらと音を深化させていくのだけど、ブレッカーブラザーズは今ひとつ気持ちに合わない。白いファンク・バンドって云われたノリがね。

3.再びジョニ:フォーク歌手からの飛躍
(8) Joni Mitchell: Court and Spark(1973)
このアルバムから一気にジャズ系のスタジオミュージシャンを起用している。あくまで彼女の音作りのパーツであり、彼女の音が精緻に組み上げられている。1970年代に隆盛を極めたAORのはしり、のようなアルバムなのだろうか。ジャズ系スタジオミュージシャンと書いたが、西海岸の強力な奏者が集結。クルセイダーズジョー・サンプルウィルトン・フェルダークルセイダーズとの共演歴もあるラリー・カールトン(30年前はリー・リトナーと人気を分けていた)、トム・スコットなどなど。

4. 西海岸の腕利き達
(9) The Crusaders: Street life (1979, MCA)
Joe Sample(key), Wilton Felder(sax,b),Stix Hooper(ds)
Arthur Adams, Roland Bautista, Barry Finnerty(g), Randy Crawford(vo), Paulinho Da Costa(perc), Paul Jackson Jr. , James Jamerson, Alphonso Johnson(b)


表題曲はランディ・クロフォードの唄付きで大ヒット。AORとかブラコンとか云われていた時代。懐かしい。未だに古びていないことが、WRと対照的で黒人音楽の強さ、をいつも思う。WRの場合、ザヴィヌルのテクノロジーへの関心が時代と心中させる要素となったように思う。その点、このアルバムなんかは洗練されているが、人の作る音の香気で一杯。

(10) Joe Sample: Carmel (1979, ABC)
Joe Sample(p), Abraham Laboriel (b), "Stix" Hooper (ds), Dean Parks (g), Paulinho da Costa (perc)


肩のこらない気楽なアルバム。ふっと聴き流せるような軽い曲調が案外よい。出た頃は良く聴いた。Carmelは中部カルフォルニアで突き出た半島。北からの海流がラッコとか海獣を運んできて、なんとも不思議な気持ちよい場所。隣町のモンタレーの海岸縁で呑んだビールは美味かった。そんな気持ちで軽く聴いてね。

(11) Larry Carlton: Strikes Twice(1979?, WB)
Larry Carlton (g), Greg Mathieson(key), Paulinho Da Costa(perc), Brian Mann(key), John Ferraro(ds), Don Freeman(key), Robert "Pops" Popwell(b), Terry Trotter(key)


まあこんな感じのアルバム。あんまり好きな感じじゃないけど、最近の方が味わいがあっていいかな。

(12) Tom Scott: Street beat(1978, Columbia)
Tom Scott(reeds), Neil Stubenhaus(b), Jeff Porcaro(ds), Carlos Rios (g), Jerry Peters(key), Ralph MacDonald(ds)他


まあ、このヒト達は音の職人だと思う。だからそういう気持ちで聴くと上手いなあ、と思う。

5. Epilogue: フォーク歌手Joni Mitchell
(13) Joni Mitchell: Clouds(1968, Reprise)
1979年を起点に時間を遡行する音の旅の最後。1968年の第二作。このようなアルバムを聴いているとジャンル分け議論の虚しさを思う。ジャンルや時間を超えた、ある種の普遍性を保持する音は確かにあると思う。B面最後のBoth sides nowまで聴き手を鷲掴みにして離さない。 1970年の「あの」ワイト島フェスティバルではThe WhoMiles Davisとともに出演している。当時ですら、そのようなジャンルを超えた存在だったのではないか。