Kanazawa Jazz Days

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ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

ボストン美術館:Art Nouveau in Japanese Postcards (2004だったか)いにしえの日本の香が沸き立つ図案


 

竹久夢二(1883-1934)の絵葉書

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ボクは技術屋なのだけど、数年前、経緯・縁があって2年間ほど米国の学術雑誌の編集委員をやったことがある。投稿記事の採録・返戻を決めることが仕事で、2年間で200本ほどの記事をさばいた。といっても独りで読んで・決める訳ではなくて、査読者(5人/記事1本)に頼んで意見を貰い、それをまとめる仕事。無償のヴォランティア仕事としては、過去、一番重いものだった。ひとつの記事をさばくのに4ヶ月かかっていたので、常時40本の記事を抱えて、40本X5人/本=200人の査読者の進捗管理・査読結果取立てをやっていたから。

年末になると、多くの査読者、数100人、に対して御礼のメイル、Season's Greetingsを出していたのだけど、図案に使っていたのが、2004年頃にボストン美術館:Museum of Fine Arts (MFA) Bostonで開催された日本の絵葉書展「Art Nouveau in Japanese Postcards 」で展示されたローダー・コレクション。ごく一部がインターネットで閲覧できる:http://mfaboston.com/collections/search_art.asp?coll_package=17823

失われた、いにしえの日本の香が沸き立つ図案で、随分とよろこばれた記憶がある。なんとなく、お正月なので、皆様にもSeason's Greetingsの積り。改めて、あけましておめでとうございます。

 

梶田半古 (1870-1917)

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ボクは仕事(のようなもの)でボストンに出かけたときに,この「Art Nouveau in Japanese Postcards 」に上手く行き当たったことがある。2004年くらいだったか。ボストンには仕事や、仕事のようなもの、でかれこれ20回近く行ったような気がする。米国では例外的にとても好きな場所。時間があくと、ダウンタウンのコプレイプレイスあたりから地上を走る「地下鉄」に乗って出かけた。ゴッホ、ミレー、ルノアールのような泰西名画も楽しいのだけど、エジプト展示室のミイラ(マケドニアプトレマイオス朝の時代、ギリシャ人っぽい図柄の棺桶って面白い)や、かの岡倉天心が東洋部長を務めていたという東洋美術の展示、日本の仏像や根付、李朝の青磁、中原の古代青磁器などなど。こんな遠くの大西洋岸まで来て東洋美術もないのだけど。多忙だった前職では、まとまった時間はこんなときにしかなかったから。

そんなボストン美術館でたまたま展示していたのが日本の絵葉書展「Art Nouveau in Japanese Postcards 」。浮世絵というのは日本の典型的なPOP Cultureだったのだと思うのだけど、そのような浮世絵の世界の美意識を引き継いで明治の御代で密やかに咲いていた絵葉書。その絵柄が素敵でPOPな感覚に溢れているのに驚いた。浮世絵から今のアニメーションまで、西洋を魅了し続ける日本のPOP Artなのだろうなと思う。

あまりに自分の知らない日本に溢れていたので、目録も買い求めた。いまでも、時折、ぼおっと見ている。指の間からこぼれてしまったような、もはや帰ってこない在りし日の日本が香しく立ち昇る。金澤でも、このような日本が失われたことに違いはないのだけれど、辻の向こう側にもしかして残っているかもしれないような感覚になったり、坂の途中のお地蔵様に手をあわせているときのお香の匂いにそのようなことを感じたりする。指呼の間に在りし日の日本が香り立つ街。

 

この絵葉書展では竹久夢二の絵葉書が数葉でていて、予想に違わないような絵柄だった。竹久夢二という名前からは、大正期の退廃的とも云える時代の空気の中でゆっくりと発酵したしたような美人絵を思い浮かべるのだけどね。金澤で竹久夢二というと、彦乃との北陸旅行で逗留した湯涌温泉。鈴木清順の「夢二」も、そのような時代の大気を凍らせてみせてくれる。だけどボクにはそれだけでもない。

ボクが好きな山の作家・画家、亡き辻まことアナキスト辻潤と,甘粕正彦大杉栄とともに惨殺された伊藤野枝との間の息子)が竹久夢二の息子 竹下不二彦との遊び友達。山本夏彦の「無想庵物語」は武林無想庵の 娘イヴォンヌ(純然たる日本人)への痛切なオマージュなのだけど、イヴォンヌと結婚したのは辻まこと。戦後、辻まことがイヴォンヌと別れ、娘二人を養女に 出した先のひとつが竹下不二彦。このあたりのヒト模様のつづら折りが大正期から昭和の所謂モボ・モガの時代の空気を濃厚に伝える。この養女に出された竹久 野生さんとい方はご存命のようで、婚後に移住された南米で絵を書いて、今も時折、日本で個展を開いておられるよう。確か、山本夏彦の本でも、この方のこと を言及していた記憶はある。

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結局、そんなどうでも良いことを思い起こしながら、絵葉書といい、大正から昭和初期の人間模様といい、なにか失われたものの残香を捜し歩くような時間がなんとなく好きなのだろうな。だから今年もそんなモノを求めて、ふらふらしていそうな予感で溢れている。