Kanazawa Jazz Days

Kanazawa Jazz Days

ジャズを中心としたレコード/CD、登山/渓流釣り/ランニング、金沢の日々の暮らし

Chet Baker & Paul Bley: Diane(1985)それにLet's Get Lost(1988)不良の結晶


Chet Baker & Paul Bley: Diane(Steeple Chase)
1. If I Should Lose You
2. You Go to My Head
3. How Deep Is the Ocean?
4. Pent-Up House
5.Ev'ry Time We Say Goodbye
6.Diane
7.Skidadidlin'
8.Little Girl Blue
1985年

今朝の金澤は素晴らしく金澤らしい曖昧な雨模様。夜半からの強い雨は収まっているが、されとて晴れる様子もなく、このまま雨が降りそうな様子が続いていくのだろうな。こんな朝はボクの部屋にも光は射し込まないので、随分とゆっくりとした気持ちで朝の時間を過ごすことができた。少しいろいろなことの感度を落としているので、ベランダに滴り落ちる水とか、裏の竹藪の揺れとか、住まいの上を通り抜ける風とか、布団のなかでいちいち気になっていたオトがストンと静か になっている。だから、起きがけに少し本を読んだりして時間を過ごしている。面白いアンソロジー集を買ったのでね。遅ればせながら読書の秋。気分よく雨模様のなか、クルマをやめて傘をさして歩いて出勤したら、思わぬ雨脚で濡れ鼠になってしまったが、それもまあ気持ちよし。

秋はDuoだと仰せの方がいらっしゃって、ボクもまったくその通りだと思う。友人との月例Jazz会の9月のテーマもDuoだった。たかだか4時間くらいの間に紹介できるDuoなんて僅かで、あれもこれもと後から後から気になって仕方がない。紹介できなかったアルバムのなかで、好きな一枚が Chet Baker(tp) と Paul Bley(p)のDiane。しっとりとしたバラードのアルバム。Chetがアムステルダムのホテルから自殺とも他殺ともつかない転落死で、この世を去ったのが1988年だから、そのちょっと前の作。この頃は欧州中心の活動が活発で、アルバムも随分でている。まあどれも似たような感じなのだけど、決して悪くない。所謂ウタゴコロに溢れているから、そのココロにやられてしまうコトが多い。うたっているのだ。

Paul Bleyも頑張ると行き過ぎで、控えると控えすぎで、何かなあ、というリーダ作が多い御仁で、微妙に面白くないアルバムが多い。引き込まれるフレーズがタマに出るから諦め半分で買うこともあるのだけど、やめときゃヨカッタアルバムが多い。しかし、Duoでの打率は比較的良好で、頑張るときの頑張りと控える時の控えがバランスがとてもよい。だからPaul Bleyをしっかり聴くことにも、とても向いている。

一曲目のIf I Should Lose Youで、その想いがしっかり伝わってくるので、なかなか胸に迫り来る哀感あり。Chet56才、全く枯れていない。二曲目のYou Go to My Headでは歌う。しっとりとパートナーに対する情感が静かに沸騰している。こんな感じで、最後まで引っ張ってくれる。Bleyの伴奏(あえて伴奏と書 く)も、ちゃんと歌伴になっていて、時として鉱物のような冷たい輝きを、さりげなく放つ。

若い頃、その美貌で絶大な人気を誇った(そうだ)Chetだけど、ご多分に漏れず麻薬渦で人生ボロボロ。50代にしてシワだらけの顔写真は往年の面影はカケラも見えない、と思っていた。そう,思っていた。

往年の写真(1950年代前半かなあ)

1988 年春にChetの謎の死を知った。新聞の死亡欄にも小さく出た。過去の人だと思っていたからふうん、という感じ。同じ年の秋、渋谷のパルコ(だったか)で Chetのドキュメンタリー映画Let's Get Lostを観た。写真家Bruce Weberが監督なので、当時の”おしゃれ系”の扱いで渋谷。あんまり縁のない街だったし、雰囲気の違う人たちとの入場待ちも居心地が悪かった。映画をみ て驚いた。皺くちゃになったChetはナマモノのように瑞々しく(演奏を聴けばわかる)、放埒な人生の悪が皺の一本一本になったような、不良の結晶。 Bruce Weberの力量だろうな。

煉獄を目指し、荒野を歩くような殺伐とした晩年に違いない。だけど、トランペットから溢れる情感 は全盛期の頃よりむしろボクのなかに忍びこむ豊かな力を持っている。Let's Get Lostで垣間見える人間性と、音から伝わる世界のアンバランスが、Chet Bakerの魅力なのだろうな。

ボクはそんな人生のアヤに奥手だから、Chetがあの世に行って20年経ってから、やっと少しだけ気がついた次第。

Let's Get Lostより。ファッション写真家の力量が窺える。
このサンタモニカあたりのハイウエィの光景はボクのなかに焼き込まれていて、きっかり10年後にはじめてロスに行ったとき、排ガスで白けた空のもと、既視感をたっぷり感じたことを思い出した。


Let's Get LostはYoutubeにも連続でアップされている。
http://www.youtube.com/watch?v=NM06zJReXyk